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ロシア科学アカデミーの歴史は古く、1725年ピョートル一大帝によってロシアの科学技術の発展を願って設立されたものである。 ソ連時代はソビエト連邦科学アカデミーとなり、ソ連崩壊後、1991年にロシア科学アカデミーとして再編された。
ロシア科学アカデミーはウラル支部(37研究機関)、シベリア支部(59研究機関)及び極東支部(33研究機関)と3支部に分かれている。 本稿では、その中で日本ではあまり知られていない、シベリア支部の研究所について説明する。
シベリア支部はノボシビルスク市にある。ノボシビルスク市はモスクワから空路5時間、シベリア鉄道で二晩の距離にある。韓国や中国からは直行便がある。 帝政ロシア時代の1893年にシベリア鉄道の建設の中心的な基地として建設されて発展した。ロシア第3位の人口で約140万人である。ちなみに1位はモスクワ市 1,000万人、2位はサンクトペテルブルグ市 460万人である。 機械、金属、化学工業、食品を中心とする工業都市で地下鉄もある。他に軽工業と農業、畜産業、林業も盛んである。
第2次世界大戦が終わり冷戦のさなか1957年に科学研究都市 アカデムゴロドークの建設が開始された。アカデムゴロドークとはアカデミーの町という意味である。 モスクワやレニングラード(現サンクトペテルブルグ)はヨーロッパからの敵の侵入を受けており、将来起りうる核戦争を予想したとき、国境からの縦深性を高め技術力のバックアップを一つの目的とした研究施設として設立されたのではないかと思う。
余談だが、この市には芸術的レベルの高いノボシビルスク バレエ団がある。この伝統は第二次世界大戦中にレニングラード バレー団が疎開をして来たことによる。当然、研究者や技術者及び各種産業も疎開して戦争継続の力になり、市の産業も発展した。 ロシア科学アカデミー・シベリア支部の研究所群は、ノボシビルスク中央駅から南東約22kmに位置するアカデムゴロドークにある。
緑の森の中にある美しい町で、車で駅から約一時間かかる。日本の「つくば研究学園都市」のモデルと言われている。 シベリア支部は1998年に再編され59の研究機関は9科学センター(ノボシビルスク、ブリヤート、イルクーツク、ケメロボ、クラスノヤルスク、オムスク、トムスク、ヤクート及びチュメニ)からなる。総員は2006年時点で31,110人であった。
筆者は2008年の夏にHIGH ENERGY DENSITY HYDRODYNAMICSのWORKSHOPに参加したときに、アカデムゴロドークのThe Exhibition CenterでPermanent Exhibition of the SB RAS developments研究所のPRセンターを訪問した。見学の時にガイドブックを貰った。研究所の住所、連絡場所、URLや活動内容を紹介している110ページの小冊子である。活動内容は多岐にわたるので詳細は省略し、いくつかの研究所について概要を紹介するとともに、9の科学センターのうち8科学センターの研究所名やURLを紹介する。合計59機関あると言われているが、小冊子にあるのは56機関である。人文系研究所は省略されている。
ソ連崩壊時の経済危機のとき、ロシアの研究所は予算が削減され研究が出来なくなった。日・米・EUなどはロシアやNIS諸国の大量破壊兵器関係の研究者や技術者が失業し、第3国へ流失するのを防ぐためISTC(International Science and Technology Center) を作り経済的な支援をした。しかし有能な研究者や若い研究者も職を求めて外国へ去った。残った研究者は研究所を維持し、また生活を支えるため技術や製品を販売し自活した。この事業は現在でも続いており、そのため共同研究や技術輸出及び製品販売を積極的に行っている。
ノボシビルスクで最初に建設された研究所で、以前に通商産業省工業技術院化学技術研究所と交流があった。 いまの研究テーマは次の4つである。
現在のPhysical Hydrodynamics 部門でHigh-energy Processes研究室のHeadを務めているDr.Shvetsov Gennady Anatolievichは20年前、ソ連時代末期の混乱期で店に商品の無い時代に、遠くから来た私達を自宅へ招待してくれて、親切にして頂いたことをよく覚えている。ご夫妻のホスピタリティーは今も変っていなかった。
研究所総員2,900名で400人の研究者のほか、650人の技師・技能工その他の従業員が働いている。日本とは電子・陽子加速器・放射光分析装置などの開発で関係があり、Spring8のプロジェクトにも関与している。川崎重工や東芝及びIHIなどとも交流があるようだ。ホテルでそれらの会社の作業着を着た日本人に出会った。本研究所はアカデミーゴロドークの他の研究所と共同して製品や技術輸出をしていて経済的に裕福である。
東北大学総長であった西澤 潤一先生が一時、この無機化学研究所に滞在し、クズネツォフ所長と友好関係があった関係で、研究所内部に東北大学シベリア連絡事務所を作り学術交流を行ってきた。今は東北大学・ロシア科学アカデミー・シベリア支部共同ラボラトリーと改編して学術交流事業を継続している。
1958年に設立された世界的にも最大級の触媒研究所で、総員1,000人、研究者は350人である。オムスクにも研究所とモスクワ・サンクトペテルブルグ・ボルゴグラードにも出張所があり、企業向け活動や石油精製プラント用触媒、触媒関連製品の販売、技術輸出など前述のInstitute of Nuclear Physicsと並んで活発に活動している。海外の多数の大学や企業とも交流がある。
1.ノボシビルスク科学センター (NOVOSIBIRSK SCIENCECENTRE) | |
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1 | Institute of Theoretical and Applied Mechanics |
2 | Kutateladze Institute of Thermophysics |
3 | Lavrentiev Institute of Hydrodynamics |
4 | Design & technology Branch of Lavrentiev Institute of Hydrodynamics |
5 | Institute of Computational Mathematics and Mathematical Geophysics |
6 | Ershov Institute of Informatics Systems |
7 | Design Technology Institute of Digital Techniques |
8 | Budker Institute of Nuclear Physics |
9 | Institute of Laser Physics |
10 | Institute of Semiconductor Physics |
11 | Design Technology Institute of Applied Microelectronics |
12 | Institute of Automation and Electrometry |
13 | Design Technology Institute of Scientific Instrument Engineering |
14 | Boreskov Institute of Catalysis |
15 | Nikolaev Institute of Inorganic Chemistry |
16 | Novosibirsk Institute of Organic Chemistry named after N.N.Vorozhtsov |
17 | Institute of Solid State Chemistry and Mechanochemistry |
18 | Institute of Chemical Kinetics and Combustion |
19 | Institute of Cytology and Genetics |
20 | Institute of Chemical Biology and Fundamental Medicine |
21 | Institute of Systematics and Ecology of Animals |
22 | Central Siberian Botanical Garden |
23 | Institute of Soil Science and Agrochemistry |
24 | Institute of Petroleum Geology and geophysics |
25 | Institute of Geophysics |
26 | Institute of Mineralogy and Petrography |
27 | Branch of Institute of Mineralogy and Petrography |
28 | Trofimuk Institute of Petroleum Geology, Geophysics and Mineralogy |
29 | Design Technology Institute of Instrument Engineering for Geophysics and Ecology |
30 | Institute of Mining |
2.ブリヤート科学センター (BURYAT SCIENCE CENTRE) | |
31 | Institute of General and Experimental Biology |
32 | Baikal Institute of Nature Management |
33 | Institute of Mongolian, Buddhism and Tibet Studies |
3.イルクーツク科学センター (IRKUTSK SCIENCE CENTRE) | |
34 | Institute of System Dynamics and Control Theory |
35 | Melentiev Institute of Energy systems |
36 | Institute of solar-Terrestrial Physics |
37 | Favorsky Irkutsk Institute of chemistry |
38 | Siberian Institute of Plant Physiology and Biochemistry |
39 | Vinogradov Institute of Geochemistry |
40 | Limnological Institute |
4.ケメロボ科学センター (KEMEROVO SCIENCE CENTRE) | |
41 | Institute of Coal and Coal Chemistry |
5.クラスノヤルスク 科学センター (KRSNOYARSK SCIENCE CENTRE) | |
42 | Institute of Computational Modeling |
43 | Special Design and Technology office “NAUKA” |
44 | Kirensky Institute of Physics |
45 | Institute of Chemistry and Chemical Technology |
46 | Institute of Biophysics |
47 | Sukachev Institute of Forest |
6.オムスク科学センター (OMSK SCIENCE SENTRE) | |
48 | Institute of Hydrocarbon Processing |
7.トムスク科学センター (TOMSK SCIENCE CENTRE) | |
49 | Institute of Strength Physics and Materials Science |
50 | Institute of High Current Electronics |
51 | Institute of Atmospheric Optics |
52 | Institute of Monitoring of Climatic and Ecological System |
53 | Institute of Petroleum Chemistry |
54 | Department for Structural Macrokinetics of Tomsk Scientific Center |
8.ヤクーツ科学センター (YAKUTSK SCIENCE CENTRE) | |
55 | Institute of Nonmetallic Materials |
56 | Mining Institute of the North |
以上、シベリア支部の研究所を紹介した。日本から遠く離れたシベリアに多くの研究所があり、多数の研究者が独創的で長期な研究をしている。いまロシアの研究に興味を持つ日本の研究者は少ない。しかし研究所のリストを作っておけば、誰かが興味を持って見るかもしれないという願いを込めてリストを作った。将来、読者の研究の一助になれば幸いである。
ロシアでは伝統的に大学は教育機関、科学アカデミーの研究所は研究機関とされている。これらの研究所は日本と価値観の異なる研究方針と環境で、流行に振り回されず独創的な研究を継続している。研究所の課題や成果はURLで見る事ができる。この内から新たな発見をされるよう切望する。 ロシアの科学技術は検討する価値がないという人がいる。しかし見る目が無ければ全て灰色にみえる。唐代の韓愈の「雑説」にあるように「千里の馬は常に有れども、伯楽は常に有らず」である。